「船が浸水している、沈みそうだ!」<br />4月23日、知床半島西側を航行中の観光船「KAZUⅠ(カズワン)」から救助要請が寄せられた。運航会社「知床遊覧船」が他社に先駆けて営業を始めた初日のことだった。天気予報では海が荒れる予想となっていた。<br /><br />04.jpg<br />乗客乗員26人を乗せて沈没した「KAZUⅠ」(視聴者提供)<br /><br />001.jpg<br />当時 現場海域の波の高さは3mを超えていた<br /><br />05.jpg<br />深さ120mの海底で船体が発見された<br /><br />「ブラック企業で右往左往です」<br />船を操縦していた豊田徳幸船長が、事故の約1ヵ月前に残していた言葉だ。メッセージを受け取った友人は、豊田船長が無理な出航や過酷な勤務を命じられ、悩んでいたと証言する。船の修理を求めても応じてもらえず、「いい加減な会社だ」とよく口にしていたという。<br /><br />01.jpg<br />運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長<br /><br />11.jpg<br />豊田船長が友人に送ったメッセージ<br /><br />12.jpg<br />豊田徳幸船長はかつて水陸両用バスを運転していた<br /><br />その運航会社の桂田精一社長。事故の5日後にようやく開いた会見で、当日の出航判断についてこう説明した。<br /><br />「海が荒れるようであれば引き返す『条件付き運航』であることを豊田船長と打ち合わせ、出航を決定しました」「最終的には船長判断です」<br /><br />桂田社長は運航を統括する「運航管理者」でありながら、ほとんど事務所に常駐していなかった。一方で、世界遺産・知床の観光拠点である斜里町ウトロで旅館やホテルを複数経営し、外国人観光客の増加などを背景に事業拡大を図っていた。さらに豊田船長が友人に宛てたメッセージから、「知床遊覧船」が新たな観光船ビジネスをもくろんでいたことも明らかになった。<br /><br /><br />10.jpg<br />当日の出航について「条件付き運航だった」と強調した<br /><br />03.jpg<br />出航中止を定めた運航基準は守られなかった<br /><br />07.jpg<br />知床遊覧船の事務所 桂田社長は当日も不在だった<br /><br />「社長は海のことを全くわかっていない」<br />海や船の知識が乏しかったという桂田社長は、去年、複数のベテラン船長を雇い留めにしていた。残ったのは、1年前に船長の職についたばかりの豊田船長。甲板員は事故当日が初めての乗務だった。事務所にいたのは従業員1人と、手伝いに来ていた2人だけ。同業者は、桂田社長が人件費を削減したかったのではと語る。関係者の証言を積み重ねると、経験の乏しい「寄せ集め」の運航体制で、安全面が軽視されていた実態が浮かび上がる。<br /><br />「KAZUⅠ」は去年、接触事故と座礁事故を起こしていた。北海道運輸局が特別監査を行い、「知床遊覧船」は改善報告書を提出していたが、その教訓が生かされることはなかった。出航中止基準や連絡体制などを定めた「安全管理規程」の内容を順守するという約束は果たされなかった。<br /><br />ずさんな安全管理はなぜ見過ごされたのか?船の検査機関の関係者が初めて語った行政のチェック体制の問題点とは。<br /><br />02.jpg<br />桂田社長は宿泊事業の拡大を図っていた<br /><br />06.jpg<br />捜査のため陸揚げされた「KAZUⅠ」の船体<br /><br />08.jpg<br />沈没から約1か月後に引き揚げられた「KAZUⅠ」<br /><br />スタッフ<br />ナレーター 小山 茉美<br />プロデューサー 金子 陽<br />ディレクター 須藤 真之介<br />編集 上田 佑樹
