格差が社会に及ぼす影響: リチャード・ウィルキンソンRichard Wilkinson : How economic inequality harms societies<br /><br />先進諸国を比較すると、日本や北欧は富裕層と貧困層の格差が小さく、英国や米国は大きい。社会問題の発生率、不健康の度合い、子供の幸せなど様々なデータと照らし合わせると、格差の小さい国の方が問題が少ない。逆に言うと、国民総所得は幸福の度合いとは無関係である。富の分配こそが、格差をなくし、国民の幸せにつながる。<br /><br /><結語より><br />格差是正を最も必要とするのは、貧困層だが、富裕層も恩恵を被る。<br />ここで重要になってくるのが、格差のもたらす心理社会的影響です。優越感、劣等感、自分の生存在価値を実現できるのか。<br />もちろん、格差社会にぽける競争意識が消費を促すのですが、不安を煽ることにもなり、余計に他人の評価が気になる。自分が魅力的で知的だと思われているか、心配。社会的評価に対するおそれが、ますます大きくなるのです。<br />社会心理学謝たちもこれに関心があるようで、ある研究では、ストレスに関する208件の調査結果を分析しました。調査結果はストレスに対する身体的反応、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの数値を上げる原因は何なのか?<br />それは、他人に何かをマイナス評価され、自尊心や地位を脅かされる危険がある状況なのだと判明しています。そういうストレスは身体に特殊な影響を及ぼすのです。<br /><br />もちろん、我々の研究を批判・否定する人もいます。でも我々は都合のいいデータだけを出しているのではなく、入手したデータはすべて分析して使っています。データの信頼性を判断するのは調査を実施した人たちです。<br />他の国はどうなっているか? 200件もの研究結果が学術誌に発表されています。決して一部の国だけの子とではありません。<br />それから、格差の目安となるデータが常に同じだと言う指摘があります。<br />でも、国民総所得は幸福度とは無関係でした。さまざまな要素を考慮した複雑な方法をとる学者もいます。<br />あと、因果関係ですが、相関関係は因果関係を表しません。<br />でも、中には、因果関係が明らかなケースもあります。先進国では、社会的ストレスが免疫系・心血管系の異常を起こす大きな原因だと言われています。<br />また、格差の大きい社会では暴力が増加するのは「ナメらてたくない」という意識のせいです。<br />改善するには、税引き前、税引き後の療法で格差是正に取り組むこと。組織の上層部の給与を減らすこと。会社が全面的に従業員の面倒を見ること。人々の生活の質を上げるための条件は、所得格差の縮小。今、国民の心理的社会的な幸福とは何かが、分かりつつあるのです。<br /><br />リチャード・ウィルキンソン:公衆衛生学者。「格差社会の衝撃」「平等社会」など著書多数。<br /><br /><要約><br />1.格差は対立と腐敗を生む証拠をデータでお見せしよう<br /><br />2.ある逆説〜所得と寿命の相関関係<br /> 国と国との比較ではGNP(横轴)と寿命(縦轴)の相関関係はない<br /> 豊かな国に住んでいるから長生きするということにはなっていない<br /> しかし同じ国内の個人レベルでは明確な相関関係がみられる<br />(一見すると矛盾しているようだが、国によって各所得層の人口比率が異なる、つまり格差の大小があるために、平均値にバラツキが生じ、国による相関は消えてしまうということをパラドックスという言葉で表現しているのだと思います)<br /><br />3.格差の尺度<br /> 所得格差=(上位20パーセントの所得)÷(下位20パーセントの所得)<br /> 日本= 3.4 シンガポール= 9.7<br /><br />4.格差の大きい社会と小さい社会との比較<br />(健康・社会問題指数=寿命、生徒の数学と国語の点数、幼児死亡率、殺人、投獄、十代の妊娠、信頼、肥満、精神病、中毒症、社会流動性を加重平均して得た指数)<br /><br /> ·格差(横轴)と健康·社会問題(縦轴)の相関あり<br /> ·一人当たりのGNP(横轴)と健康·社会問題(縦轴)の相関なし<br /> ·格差(横轴)と児童福祉(縦轴)の相関あり(UNICEFのデータ)<br /> ·一人当たりのGNP(横轴)と児童福祉(縦轴)の相関なし<br /><br /> 先進国においては、平均的な幸福度と経済成長との相関がない<br /> 同じ社会内での他者との関係が大きく影響する<br /> 健康·社会问题を項目·地域ごとに分解しても同じ結果<br /><br />5.項目を総合したグラフから読み取れること2つ<br /> ①格差による社会的機能障害がおきている<br /> ②格差を縮める方法は問わない(スウェーデンと日本の比較)<br /><br />6.格差による影響を受けるのは貧困層だけではない<br /> 英国とスウェーデンの幼児死亡率の比較<br /> 上流階級の間にも格差は存在する<br /><br />7.格差社会の心理的側面<br /> 優越感と劣等感、高評価と低評価、尊敬と軽蔑<br /> 個人としての魅力よりも社会的なステータスを気にする<br /><br />8.ストレス·ホルモンを増加させる要因<br /> 自尊心、社会的地位を脅かす行動がストレス·ホルモンを増加させる<br /><br />9.私たちの研究に対する批判<br /> データは信頼できるのか?<br /> 他の国ではどうか?<br /> 他の要因が関係しているのでは?<br /> 因果関係はあるのか?<br /><br />10. 格差を縮めることが社会の幸福を向上させる<br /> 課税の前か後かに富を再分配し、所得を是正することが必要<br /> 取締役クラスの報酬に目を光らせるべき<br /> ───────────────────────<br />リチャード・ウィルキンソン氏は自身が集めたデータだけでなく、さまざまな公的データから経済格差と健康や寿命、さらには信用のような非常に基本的な価値観などに対する実質的な影響との相関関係についてまとめています。<br /><br />この結果から、格差の大きいアメリカなどでは父親の収入がそのまま子供の環境要因に影響することがいえます。<br /><br />格差と影響の関係が異なっている場合は政府が意図的に何らかの対策を実行している場合と考えられます。例えば健康については所得格差の大きいスウェーデンと所得格差の低い日本が拮抗しています。この背景にはスウェーデンでは 課税や社会保障制度 そして寛大な福祉などで 格差を小さくしており、日本は税込み所得の格差がずっと小さいので税金が低く社会保障は少なめです。<br /><br />格差と社会的指標には相関性があり、またその相関性と異なる結果の場合には、政府による支援等が影響している可能性がある、という新たな視点を認識できました。国と何らかの指標を比べる際、GDPを利用しがちですが、格差で見てみると新しい発見があります。
